腐っても鯛でしょ?
① 千円しか持ってない。
② 千円も持っている。
状況は同じであっても、伝わる印象はガラッと変わります。
大人が自分の財布をのぞいた時、もし残金が1000円ならば、おそらく①のような言い方をするでしょう。しかし、これが幼稚園児だったら、②のように言うのではないでしょうか?
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「半神半人って?」
ギリシャ神話に登場する“へラクレス”を紹介する英文を読んでいた高校2年生のHさん。突然まじまじと質問してきました。
その鋭い眼光に圧倒されながら、
小池(オドオドして)「そ、その字のごとく、は、半分は神様で、は、半分は人間の存在だよ。」
そんなふうに説明したところ、
Hさん「えぇ~っ、神様が半分しか入っていないんですかぁ~?」
小池「・・ちょっと待って、仮に10分の1だって、体内に神様が宿っていたら、超凄くないかい?」
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私がまだ高校生の頃、“Mr.マリック”という凄腕の手品師が一世を風靡していました。
もちろん手品ですのでトリックはあるのですが、あまりの巧妙さゆえに、Mr.マリック氏は“超魔術師”と称えられ、まるで超能力者のような演出を施されていました。
テレビが主たる情報源だった当時は、Mr.マリック氏のことを、本物の超能力者と信じた人も少なくありません。“エンターテインメントと現実の区別がつかない現象”が、普通にありふれていました。
時が経つにつれ、“ハンドパワー”と呼ばれた超能力にも、さすがにトリックが存在することが分かってきました。ところが爆笑なのが、興味深いのが、その当時に流布した説です。
「Mr.マリックは、超能力の効果を高めるため、あえて半分トリックを混ぜている。」
不思議なことに、しばらくの間は相当数がその説を信じていました。当時の私の同級生も、「半分はトリックなんだよね~。」と平然と語る有様。
ちょっと待ったぁぁーーーっっっ!!!
「あのぉ~っ、仮に“10分の9”がトリックで、超能力が“1”だったとしても、その1だけで世界を驚愕させる“大発見”に相当していませんか?」
「例えば、1分前後しか移動できない“タイムマシン”だって、それだけで十分ぶったまげませんか?」
当時はまだ、性格が温厚で心が清らかで誰に対しても優しかった小池青年には(*演出の効果を高めるため、あえて半分トリックを混ぜています)そんな反論ができるはずもなく、心に留めるに終わりました。
前述のHさんとのやり取りの中で、ふとそんな昔のことを思い出した次第です。
さて、今やテレビや雑誌等には、“近頃の若者は、ゲームや漫画の影響で現実と虚構の区別がつかない!”といったお決まりのフレーズがありふれています。
しかし、そんな批判をする世代だって(私の世代も含め)、Mr.マリックのエンターテインメントに対して、「超能力とトリックの融合だ」と平然と語っていた黒歴史があるんですよ。
ここ数年の間に大学を卒業して社会人となった若者は、不運にも“ゆとり”とか“平成生まれ”といった言われもないレッテルを張られる傾向にあります。
しかし我々だって、“超能力とトリックの融合を夢見たファンタジー世代!”とクスクス笑われてもおかしくないんです。当時の騒動を知る若者が少ない(まだ生まれていない)ので、指摘されないだけなんですから。
教え子たちのやり場のない憤りを、ちょっぴり緩和できたら幸いです。