仕事帰りのことです。日付が変わり、30分が経った頃の武蔵境駅のプラットホームにて。

私はコーヒーを買おうとして、テクテク自販機に向かって歩いていました。

ふと目に飛び込んできたのは、ベンチに座って黙々と新聞を読みふける一人の男性の姿。

足を組みながら、まじまじと顔を近づけて、真剣に今朝の新聞(時刻的には昨日の新聞)を読んでいました。

もしも、男性が手にしている新聞が競馬新聞だったら、そのまま“場外馬券売り場”の風景にも、溶け込めていたことでしょう。

数分後、電車が到着し、私とその男性は同じ車両に乗り込んでいました。

男性はその後も、黙々と新聞とにらめっこ状態。

ところで、その男性が気になってしまった理由は、彼が外国人(アメリカ人?)だったからです。

清潔感あふれるビジネススーツを着こなして、足元には大きなキャリングケース。おそらく、仕事で日本に来ているエリートビジネスマンといったところでしょう。

鬱陶しくてたまらない愛してやまない喧騒とした深夜の電車の中において、男性は周りのことなんて一切気にしない様子で、一心不乱に新聞を読み続けていました。

大都会東京の“ど真ん中”を走る中央線ですよー。インターナショナルな路線で、各駅のキヨスクには英字新聞も売られているんですよー。それなのに、なぜに日本語の新聞?

なんとも稀有な光景を目の当たりにして、

「アメリカにいる日本人観光客が、現地で新聞を買って読んでいたら、周りにはこんな感じに映っているのかなあ~」

そんな感想を抱きました。

男性は途中の駅で降りてしまいました。その際、それまで彼がずっと同じページを開いていたことに気付き、やっと理由が分かりました。

それに気付けなかった自分が、ちょっと恥ずかしくも思えました。

自身の語学力を磨こうとして、日本語の新聞を読んでいたのです。男性は勉強していたのです。

もちろん、仕事で日本に来ているのですから、日本語で仕事の会話ができちゃうかなりの実力者であることに、間違いはないでしょう。

そんな方でも、こういった隙間時間に自己研鑽に勤めているのです。

大きな衝撃でした。

一つ水を差されたのは、男性の斜め向かいに座っていたおっさん中年男性が、「マナーなんて、おととい来やがれ!」的なオーラ全開で、携帯電話で話していたこと。この光景は、同じ日本人として、恥ずかしくて…もう、アホかとやめてくれと。

自宅に帰り、いつもの酒宴に興じた後は、そのまま“ベッドにダイブ”せず、久しぶりに“積ん読”状態だった洋書を開きました。

勉強というのは、終わりなき旅。その男性の姿にさっそく刺激された次第です。

5ページくらい進んだところで、寝落ちしたというオチですが…。