背後に雲(2)
前回の続きになります。
自転車置き場に向かっていた時には、すでに小雨がパラパラと舞い始めていました。
雨雲は予想よりも、若干フライング気味の様子。
「なかなかせっかちだな。」
そんな訳の分からぬことをつぶやきながら、私は急いで東に向かって自転車を漕ぎ出しました。
最初の3分くらい、つまり小金井市と武蔵野市の境界を超えるくらいまでは、小雨の勢いは変わりませんでした。
雨雲がレーダーの予想通りに西から東に動いていたとすれば、私は雨雲と同速度で進んでいたことになります。
しかし、両市の境界を超えたあたりで、赤信号に遭遇しました。
わずか1分も満たない待ち時間に、明らかに小雨の勢いが強くなってきました。
信号が青になると同時に、私は”立ち漕ぎ”で加速して東の方へ突っ走りました。すると今度は、少しずつ雨の勢いが弱くなり始めました。
これってある意味、私は雨が降り注ぐギリギリの境目で雨雲とバトルをしていたということではないでしょうか?
こんな出来事、めったに遭遇できるものではありません。
「この一期一会を楽しみ尽くすぞーー!」と、喜びをかみしめながらレースを続けました。
レース結果は、なんとかギリギリで逃げ切って勝利。
実を言うと、ラスト20秒ほどは雨に濡れてしまいました。
塾の駐輪場に自転車を置いた後、自動販売機に立ち寄って飲み物を買っていたら、その間に追いつかれたというオチです。だいたい20秒くらいのロスでした。
買い物をせずに、自転車でそのまま直接教室に飛び込んでいたら、間違いなくセーフだったはず。
「いい戦いだった。」
満足げに教室に入り、汗でにじんだ体を乾かすべく、扇風機の前に陣取りました。
扇風機の強風に向かって「あ~」と口をマヌケに開けていると、中3のO君が視界に入ってきました。
早速、強風を浴びたまま、このレースのことを自慢げに話し始めると、
O君:「雨で濡れなくても、汗で濡れていたら、あまり意味ないじゃないですか?」
小池:「うぐっ…。」